2011/04/21

Aftab-e-Sitar (Sun of Sitar)

Ustad Vilayat Khan(1924 or 1928~2004)は最も愛されたSitar奏者の一人。
演奏家になった初期の録音から晩年の録音へと聴いていくと、彼が音楽を通して偉大な旅をしたことがうかがい知れる。
つまり基本に忠実な奏法から彼独自の音楽の完成への試行錯誤、その過程で様々な美を生み出し大輪の花を咲き誇らせるに至った。
音楽家の家系に生まれた彼の人生は決して順風満帆ではなく、人気Sitar奏者だった父Ustad Enayat Khanをわずか9才の時に亡くし、祖父Ustad Imdad Khanや親戚から指導を受けた。
口伝で音楽を伝えてきた北インド音楽家の家系を継ぐ彼にとって、とても難しい学習環境を強いられたと言える。
多くの助力に支えられた中でも絶大な人気を誇った声楽家Ustad Amir Khan との親交はよく知られている。

そして彼が創っていった奏法・スタイルは他に類を見ない独自性に溢れたものとなり聴衆の圧倒的な支持を得ることとなった。

私も多くのコンサートを聴きに行ったがどの演奏にも感銘を受けた。
私の師匠は最も印象的だったパフォーマンスについてこんな話をしてくれた。

Uatad Vilayat Khanのリサイタルが行われた日、印パ戦争により戒厳令が敷かれた。
戒厳令は夜間外出禁止なのだがすでにUstad Vilayat Khanも観客もすでにホールに入っており、朝まで誰もホールから出ることは許されない。
通常リサイタルの場合は3時間位のコンサートなのだが、オーガナイザーは彼に何とか朝まで演奏を続けて欲しいと懇願した。
それは10時間を超える常識では考えられない長時間のパフォーマンスを意味していたが、彼はそれを受け入れオールナイトの演奏をすることになった。

北インド音楽のRagは演奏する時間帯が指定されているので、夕暮れ時のRagからコンサートはスタートし途中休憩を挟みながら演奏は続き、戒厳令が解ける朝に彼が最後に弾いたRagはBrindavani Sarangという昼に演奏されるRagだった。
つまり現実の時間よりも演奏されたRagの時間の進みの方が早かったということだが、私の師匠は生涯忘れることの出来ない最高の夜だったと話してくれた。

Aftab-e-Sitar(シタールの太陽)Star Nawaz(シタールの王)という称号で呼ばれたUstad Vilayat Khan。

日本風に言うなら「シタールの鉄人」だろうか?